乃木オタ大学生の日記

2X歳、男。はだサマ新規。真夏さん、れんたん推しです(ロリコンではない) ラノベとかも読みます

乃木坂ロワイヤル 七瀬編5

七瀬編5


(七瀬と一実と離れちゃった...どうしよう)
落とし穴に一実が落ちていくのを私は呆然と見つめていた。七瀬のように咄嗟に動くことはできなかった。
(待っててって言ってたけど、七瀬は怪我したみたいだったし、来られるのがいつになるのか分からない。そもそも七瀬と一実は2人で行動したいはずだし...)
私は自分が2人のお荷物になっていることは自覚していた。条件がきついこともそうだし、2人の頭の回転の速さにはついていけない。そもそも、昔から築かれてきた信頼関係のある2人に混じっていることが不自然なのだ。それでも、1人で行動するという選択は恐ろしくてできなかった。
(七瀬が言った言葉を信じよう)
私は2人が迎えに来るのを待つことにして、近くにあった教室に恐る恐る入る。幸い、中には誰もいないようだった。
(小百合と万理華と順番が近かったらな...)
私にも仲の良い友達はいる。それがその2人だった。しかし流石に順番が遠すぎて一緒に行動することは叶っていない。
(せめてどこかで会えたら)
そんなことを考えながら座っていると、ドアが開く音がする。2人が迎えにきたには少々早すぎる気がする。慌てて銃を構える。
「誰!?」
「日芽香...?」
まさに会いたいと思っていた存在がそこにあった。
「小百合!」
構えていた銃を手離し、駆け寄る。
「よかった!無事だったんだね。」
「うん...日芽香も無事でよかった」
小百合がほっとしたように言う。
「万理華は?一緒じゃないの?」
「一緒だったけど...」
今にも泣き出しそうな小百合を見て、私は察してしまった。
「誰にやられたの?」
「絵梨花から私を庇って...」
梨花の凶行は続いているようだった。ゲーム開始直後、私達が襲われたときに逆にとどめを刺しておければ...そんな考えが浮かんでしまう。
「せめて私だけでも生き延びないと...」
「うん、そうだよ。頑張ろう?」
私もショックだが、目の前で親友が死ぬのを見てしまった小百合はもっとショックだろう。そう思って小百合を励ます。
「そうだよね、だから...」
そう言ってこっちを真っ直ぐ見つめる小百合。
「ごめん、日芽香」
「え...」
ぷつっ。一瞬にして私の意識は途切れた。

「私の条件は万理華が生存していること。だから、私が生き延びるにはもうみんな殺すしかないの...ごめんね、日芽香。せめて苦しまないように殺せて良かった。」
万理華が殺されたときには絵梨花が乱発した弾の一つが私を庇った万理華の肺を貫き、万理華は呼吸が出来ない苦しみと自分が死に近づく恐怖を感じながら死んでいった。絵梨花は弾切れを起こして撤退していたおかげで私は助かったが、せめて日芽香にはそんな辛い思いはさせたくなかった。
「2人の分まで生きてみせる...だから、見守ってて」
日芽香のことを自分で殺したのにも関わらずそんなことを呟く。私は既に考えることをやめていた。頭にあるのは全員を殺すこと。自分が生きて帰ること。その2つだけだった...

「日芽香...」
日芽香の亡骸を前にして、思わず声に出して呟いてしまう。日芽香の死に顔は決して安らかとは言えなかった。目を見開いて口も半開き、何かに驚いているようにも見える。外傷は眉間に空いた一つの穴だけであるため、より表情のインパクトが強い。
(こめかみに一発で即死...銃の扱いがずば抜けて上手いか、よほど近くで撃ったか...)
後者なら騙し討ちの可能性が高い。だとしたら気を付けないと。
(敵は絵梨花みたいに分かりやすく危険な相手だけじゃないんだ...)
既に私は死ぬ覚悟は出来ているが、七瀬を生きて帰らせることが出来る確信が得られるまでは死ねない。
(とりあえず七瀬のところへ戻ろう...)

「日芽香が...そんな」
一実から日芽香のことをきいて私は後悔で頭がいっぱいになった。
(私があのとき日芽香のそばにいれば。せめて落ちても怪我さえしてなければ間に合って助けられたかもしれないのに...)
何も出来ない自分に腹が立つ。
「日芽香のことは残念だったけど...頭を切り替えないと」
直接日芽香の死体を見た一実の方がショックを受けたに違いないが、その分自分たちに近づいてくる危険にも敏感になっているようだ。
「日芽香、至近距離で撃たれたのかもしれない。そうしたら騙し討ちの可能性が高いからそういうのも警戒しないといけない」
「そんな...」
もはや何も信じられないと言っているようなものだ。
「じゃあどうすれば」
「籠城しようと思う」
一実がすかさず言う。
「幸い、私たちの条件は何もしなくても時間が経てば勝手に満たされる。だから無理に動くことはないと思うんだ。最終的には誰かとやり合わないといけないかもしれないけど...奇跡的に条件が満たされた人しか残らない可能性もあるし。食糧さえあらかじめ確保しておければ大丈夫」
「でも」
私が動けない以上、食糧確保に行くのは一実なのだ。2人の何日分もの食糧を無理に探そうと動き回ると、その分敵に遭遇する可能性もあがる。
「もう私は襲われたら助からない...だから今ある食糧は全部一実が使って。それで、24時間経ったら私を置いて移動して。」
「七瀬!」
「一実はきっと私といるときに襲われたら、私を見捨てて逃げることができないと思う。だったらもう別行動してもらった方がいい」
一実が私を見捨てないというのに根拠があるわけではなかったけれど、一実が私を庇って死んでしまう様子が何故か脳裏に浮かんだ。そんなのが現実になるくらいなら死んだ方がマシだ。
「七瀬」
一実が穏やかな顔で言う。
「2人で、帰ろう?」
「一実...」
そんな優しく言われたら、帰りたく、なってしまう。2人で、もっと生きたいと思ってしまう。
「だから、私が無事に帰ってくるのを祈ってて」
「ふふっ、帰って来るのを待つなんて夫婦みたい」
こんな時だが2人で笑みがこぼれる。
「わかった、その代わり絶対無事で帰ってきて」
こくり。一実が頷く。
「七瀬も気をつけて。私以外の誰かが来たら迷わず撃って」
撃てる自信はなかったが、一実を安心させるために頷く。
「一実、これ、着ていって」
その場で制服の上を脱ぎ、防弾チョッキを外して手渡す。
「は〜七瀬の肌のぬくもりを感じるな〜」
一実が茶化すように言う。
「馬鹿なこといってないで、早く着た着た」
「はーい」
こんなくだらないやりとりをこれからもずっとしたい。そんなことをふと思う。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、気をつけて」
本当に夫を送り出す妻のようだ。違うのは無事に帰ってこられる保証がどこにもないということ。
(でも一実なら無事に帰ってくる)
ドアの向こうに消えていく一実の姿を見つめながらそう信じることしか、私には出来ないのだった...

(七瀬...ごめん)
また嘘をついてしまった。2人で帰ろうだなんて願いが絶対叶わないことは自分が一番よく知っているのに。
(それでも七瀬には生きて帰って欲しい)
それは私のわがままなのだ。きっと七瀬は私が死んで生きることなんて望んでいない。
(でも...最後のわがままくらい、許してね)
そんなことを考えながら私は保健室を出ていくのだった...