乃木オタ大学生の日記

2X歳、男。はだサマ新規。真夏さん、れんたん推しです(ロリコンではない) ラノベとかも読みます

乃木坂ロワイヤル 七瀬編4

七瀬編4


「...よし、そろそろ移動しようか」
梨花から逃げてだいぶ経った。追いかけて来てはいないようだ。近くで物音もしない。鞄に入れていたペットボトルの水を少しだけ飲む。
「出るとき一番気をつけないとね...」
教室から出るところを襲われたら最悪だ。
ドアをあけ、周りを伺う。
「誰も居なさそう、かな」
ほっと一息ついて教室から出る。背後も警戒しつつ、3人で廊下を移動する。
カチッ。なにかスイッチが作動したような音がする。頭の中で危険を察知する警報がけたたましく鳴る。一瞬後、2人より一歩先を歩いていた一実の姿が視界から沈み込んでいくのがスローモーションのように見えた。
「っ!」
「一実!」
落とし穴だと気付いた時には体が勝手に一実の方へ駆け出していた。日芽香はまだ動けない。体が宙に浮く。ぐきり。すぐに衝撃が足に伝わる。片足から着地してしまい、鋭い痛みが襲ってくる。先に落ちた一実の方を見ると、着地の時に膝を使い上手く衝撃を逃したようで、両足で立っていた。上を見ると下に向かって観音開きに開いた床が閉じていく。
「日芽香!すぐ上にもどるから!」
「う、うん!待ってる!」
床が閉じる。
「早く上に戻ろう」
私はそういって歩き出そうとするが、
「うっ」
右足が激痛を放ち動かせない。足元を見ると変な方に曲がっている。
「七瀬!」
一実が駆け寄ってくる。
「折れてるよ...とりあえず治療しないと」
「でも日芽香と合流しないと!」
無理やり足を動かそうとする。ぐらり。上体が傾く。一実が慌てて支えてくれる。
「このままじゃ無理、幸い保健室の目の前だからさ、一旦落ち着こう?」
そういって一実が私を抱え上げる。保健室へ入り、私をベッドに寝かせる。
「とりあえず折れた足、固定するね。私が前に折った時に先生がやってくれたのの見よう見まねだけど」
少し手間取りつつも一実が手当をしてくれる。
「一実...ごめん」
私は激しく後悔する。なぜあそこで駆け出してしまったのか、何もできないのに。結局、一実はなんともないのに私だけ足手まといになってしまった。一人残して来てしまった日芽香も心配だ。
「...ふふっ」
「一実?」
なぜ一実が嬉しそうに笑ってるのか検討もつかなかった。
「いや、なんでもない。今のも飛び降りたことも気にしないで」
一実がそう言う。
「でも...結局私は足手まといに」
「いいから」
そういって有無を言わせない一実。
「よし、できた」
見た目は少し悪いが、折れたふくらはぎの上下太ももから足首までしっかり固定されているようだ。
「ありがとう...日芽香の様子を見に行こう、杖になるものないかな」
「あのねぇ...この状態で歩き回るつもり?」
呆れたように言う一実。
「そんなに日芽香が心配なら私が見てくるから」
「でも」
「さっき自分でも言ってたでしょ?足手まといって。流石にこの状態の七瀬は私でも守りきれないよ」
わざと意地悪な言い方をして私を無理やり説得する。
「でも一実の条件が...5分以上離れちゃいけないんでしょ?」
日芽香と離れてからはもうとっくに5分以上経っている。一実が条件を満たすためにはもう私と一緒にいるしかないはずだ。
「私の条件は24時間以上一緒にいることだけで、開始時からとは決まってない。だから戻ってから一緒にいれば大丈夫。まだ開始から3時間くらいしか経ってないから全然今からのリセットなんて問題ないよ」
携帯で時計を見ると16:35を示していた。
「...分かった。ごめん、お願い...」
「はいよ」
一実が笑って応え、ドアを開けて出ていく...

(そうだ、私は七瀬を守るって決めてたんだ...)
落とし穴に落ちた私に向かって咄嗟に駆け出してくれた七瀬。合理的な判断ではない。でもその姿を見て、私は昔のことを思い出していた。

私と七瀬は昔、山で遭難したことがある。家族ぐるみでのキャンプの最中に、私が七瀬を誘って親の目を盗んで抜け出したのだ。私達はちょっとした冒険のつもりだったが、気付くと帰り道が分からなくなっていた。私は食糧を確保する為に川で魚を獲ろうと潜っていたときに、足がつってしまい溺れた。七瀬はそんな私の姿に気付くと、自分は泳ぎがあまり得意ではないくせに咄嗟に飛び込んだのだ。七瀬は必死に私の手を掴み、私のせいで沈みそうになりながらも川岸に引っ張っていってくれた。幸い、流れは速くなかったので、2人で息絶え絶えになりながらもなんとか岸に辿りつくことができた。
「ごほっごほっ...助かった...なーちゃん、ありがとう...ごめん」
「ごほっ...えへへ、かずみんが無事でよかったぁ」
七瀬は自分も死にかけたにも関わらず、私が無事で良かったと笑った。その時だ。私がこの幼馴染の女の子を一生守ろうと誓ったのは。
その後、私はテレビで見た火の起こし方を思い出しながら必死で火をつけ、その煙を見つけた大人達に救助してもらった。この出来事で七瀬は私に助けられたと思っているみたいだけど、助けられたのは私の方だ。

(七瀬は頭がいいくせに、人がピンチなのを見ると咄嗟に動いちゃうんだから...本当に危なっかしい。でもそんな人の為に自分をかえりみない七瀬だからこそ、守りたいって思ったんだ)
そういえば昔はなーちゃん、かずみん、なんて呼び合っていたことを思い出す。いつのまにか恥ずかしくなって呼ばなくなってしまったけど。
私はやっぱり七瀬が大好きだ。だからまた嘘をついた。今度は七瀬を殺す為ではなく、守る為の嘘を。
(私の本当の条件を言ったらとんでもない無茶をしそうだからなぁ...)
思わず苦笑いする。
(とりあえず日芽香と早く合流しないと)
あの優しい幼馴染を安心させるためにも。
2階に再度登り、先ほど落ちた辺りまで周りを警戒しながら進む。
(どこかの教室に隠れてるのかな)
そう思い、近くにあった教室の扉を慎重に開ける。
中にあったのは、目を見開いたまま頭を撃ち抜かれた日芽香の死体だった。